日本総研のリサーチによると、2024年の出生数は68.5万人で、70万人を切ると予想されています。もう少しすればもっと具体的な数字が出るのでしょうが、いずれにせよ日本の少子化が進んでいることは明らかでしょう。この原因は色々とあると思うけれども、ここ30年ほどの視点から見ると、この少子化の原因となっているのは、日本政府の政策および私を含めた教育者たちが新たな成長戦略だの教育改革だのと声高に言い立てて、あまりにも性急に若い人々を追い立ててしまった結果であるように思えます。ごく単純に言うと、政府や私たち教育者が、のんびり確実に生きていきたいという人々のすなおな気持ちを政策や教育に反映させてこなかった結果、少子化が起こってしまったのではないかと思うのです。
私自身も教育現場で経験することなのですが、例えば最近であればAIによって仕事場や教育の現場での改革がすぐさま必要となったときに、まず真っ先にすなおな気持ちとして湧き上がるのは、そんな改革などせずにサボっていたい、現状維持でいいじゃないか、AIに合わせてスキル向上なんてしたくないよ、というような気持ちです。こんな気持ちになってしまうなんて、自分は教育者としてはダメダメだ、教育者失格だなとつい思ってしまいますが、考えてみると、これらの気持ちは子供を育てる人間としては当たり前のように湧き出てくる感情なのではないかと思うのです。サボりたい、現状維持をしたい、スキル向上をしたくない、などというと、どうしても後ろ向きでダメな教育者(自分がダメな教育者だという自覚だけは十分あります!)としか思えないのですが、言葉を変えて言えば、これらの気持ちは、「時間の余裕が欲しい」とか、「丁寧な暮らしをして今まで習得したスキルをじっくり深めて行きたい」とか、「新しい試みをしてみてリスクを冒すようなことはせず、これまでに長年検証されて確実な効果が確認されている教育法を使って子供を育てて行きたい」といった、子供を育てるときの指導者なら誰でも持つような気持ちなのではないでしょうか。そう考えると、これらのすなおな気持ちには何も間違ったところはないように思えます。、むしろ、時間の余裕、これまでに習得したスキルを繰り返ながらそれを深めてゆく過程、長年の実証のもとに確実な効果が確認されている教育法に基づいた子育てこそは、教育の基本であり、それをまずは行った上で、余裕があればAIを取り入れる、くらいの気持ちの方が多くの人にとっては確実で安心できる教育法、あるいは子育ての方法と感じます。
問題は、政府や、あるいは私自身を含めた教育者が、時間の余裕を持つことの大切さ、あるいはその人がこれまで習得してきたスキルを深めていくことを評価すること、あるいはこれまでに長年検証されて確実な効果が確認されている教育法がどのようなものかを明示すること(たとえば、実用的な英語スキルの教育でいえばはシャドーイング、そして国際的にも通用する教養を身につけるのであれば、自分の好きな文学書を繰り返し音読するなどは、おそらく最も確実な英語教育法の一つだと思いますが)を怠ってきた政府や私たちの責任でもあります。あまりに単純に聞こえるかもしれませんが、長期的な視野に立って言えば、政府も教育者も、人々のすなおな気持ちを反映しながら、(1)時間の余裕の大切さ、(2)これまでに習得してきたスキルを深めることの意義、(3)長年検証されてきて確実な効果が確認されている教育法がどのようなものかの明示、これらの三要素がいかに子供を育てるのに大事か、あるいは社会人となった後でも最も基本的な大事なことであるかと言うことを繰り返し言い続けること(そしてさらに余裕があれば、それ以上の改革をしよう、という呼びかけ)が、今後の少子化を幾分かでも和らげるために重要なことなのではないかと思います。